大判例

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名古屋高等裁判所 昭和31年(う)395号 判決

原判決挙示の証拠によれば被告人は近江絹糸紡績株式会社津工場の工員で、原判示争議に関し第二組合の執行委員として、会社側に第二組合の要求事項を容るるよう運動していたが、原判示の日右工場前において呼びかけ運動をしている際、同日午後四時三十分頃右会社社長夏川嘉久次が判示自動車に乗り津工場よりの帰途、第二組合員等約五百名が沿道を埋めつくし右自動車を取り囲み示威をした為自動車が徐行していたのに乗じ、右工場正門より東方約百米の路上において右自動車の屋根に上り、続いて同自動車の屋根に上つた藤本幸大と共に屋根上において、囲繞していた多数組合員に対し「車を止めろ」と絶叫しつつ、両足を上下交互に踏んだり跳躍したりして、同自動車屋根の鉄板を数回に亘りぽこんぽこんと音を立てると共に今にも屋根が打ち抜かれるかのように激動させたこと並びに夏川は被告人等の右行為により身の危険を感じたことを認め得るから、被告人等は多数の威力を示し第二組合の要求事項を容るるよう夏川を脅迫したものであつて、暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項に違反することは説明を要しないところである。

論旨は示威運動は法律上許されたものであつて、被告人の本件行為は示威の一種と認むべきものである旨主張するが、前認定の如く被告人の所為は原判示認定の手段方法を以て夏川を脅迫したものであるから、労働争議の正当性の限界を超えたもので処罰の対象となるものといわねばならないし、当審でした証拠調の結果に鑑みるも、被告人等が夏川を脅迫した旨の認定を覆すことはできないから、論旨は理由がない。

同第二点について。

原判決は、本件公訴事実は判示認定事実に続いて「かつ右行為により該自動車屋根を凹ませてその被害約一万三千円(公訴事実には約二万円)の器物損壊を為したものである」とあり、この点についての証拠もあるけれども、前示暴力行為等処罰に関する法律行為第一条第一項には「第二百二十二条又は第二百六十一条」と択一的に規定しているから、重畳的に両条該当事項を認定しては却つて右条文に反するのみならず、他面一所為数法条、包括一罪乃至併合罪の孰れの場合にも該当しないから、判決事実にはこの部分を削除したのである。と判示したことは所論の通りであるが、多数の威力を示して刑法第二百二十二条の脅迫罪及び第二百六十一条の毀棄罪を犯した場合は之を包括して観察し暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項違反の一罪として処断すべきであると解する(昭和七年十一月十四日大審院第一刑事部判決参照)を相当とするから、原判決が本件起訴の脅迫と毀棄とが併合罪にもあらず一所為数法条にもあらざるは勿論暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項の包括一罪でもないとして毀棄の部分を判示事実より除外したのは法律の解釈適用を誤つた違法のものである。然しながら前示の如く本件毀棄と脅迫とは包括して暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項違反の一罪であり一個の公訴事実一個の訴因と考えるべきものがあり刑事訴訟法第三百八十七条第二号の事件としても単一で其一部たる毀棄の部分について審判しなくても、脅迫の部分について審判している以上審判の請求を受けた事件について審判しない違法があるということはできない。尚前記法令適用の誤は前記毀棄の全公訴事実に於ける比重其他諸般の状況に照し判決に影響を及ぼすこと明かな誤とは言い得ない。

結局論旨は理由がない。

(裁判長判事 高城運七 判事 柳沢節夫 判事 中浜辰男)

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